原発事故被害者「相双の会」会報137号が届きましたので転載します。

原告である漁業者や市民は福島第一原発の事故で大変な被害を被った。
そのうえに今回の「ALPS 処理汚染水」の海洋放出によって、「二重の被害」を受けることになる。
しかも今回の被害は国や東電の故意によるもので、新たな加害行為だ。
訴状では「二重の加害による権利侵害は絶対に容認できないとの怒りを持って提訴する」と書いた。

国は、ALPS 処理汚染水を薄めて基準値以下にすれば海に流してもいいと主張しているが、危険性のあるものは環境から隔離しておくことが安全対策の基本だ。
そうした間違った行為を何としてでもやめさせたいと考えて、差し止め訴訟に踏み切った。

漁業者のたちあがり

海洋放出を何とか止めたいという多くの市民の声を聞いてきた。
ただし、直接の被害を受ける漁業者が原告に加わらずに、一般市民だけで裁判を戦い抜くこは困難だろうと内心では考えていた。
原告になりたいという漁業者が出てきたことで、提訴の条件が整った。
原告にならなかった漁業者も、心の内では提訴した漁業者を応援していると思う。
11 月9日に第 2 次提訴を行うべく追加募集をしている。

東電は原発事故によって、大量の放射性物質を環境中に拡散させた。
そのうえ今回は、ほかにも対策があるにもかかわらず、水で薄めているとはいえ、海に放射性物質を拡散させるという間違ったやり方をした。
以前より放射性物質が増えることは確かであり、それを市民がいやだと考えるのは当たり前だ。
平穏生活権という人格権の一部が侵害されていることを、裁判を通じて訴えていく。

ALPS 処理水の問題点

ALPS で処理しても汚染物質が完全になくなっているわけではない。
問題は、ALPS 処理汚染水の中にセシウム134やセシウム 137、ストロンチウム 90、ヨウ素 129 や炭素 14 などの放射性物質がどれだけ残っているかが正確には明らかでないことだ。

訴状で述べたように、太平洋諸国連合の専門家パネルの見解によれば、東電の測定方法には偏りがあり、1000 基を超すタンクに貯められた水に関して、正確なことは分かっていない。
特に早い時期にALPS 処理された水には高い濃度の放射性物質が残っていて、タンクの底には泥状の物質がたまっているとも言われている。
裁判では、この ALPS 処理された汚染水の実態が何であるかについてまず明らかにさせたい。

トリチウムの安全性については、科学者の間でも意見が分かれている。
訴状では、トリチウムの安全性について書かれた世界中の論文を収集して分析したレポートの一部を引用した。
それによれば、大半の論文ではトリチウムが内部被曝をもたらすとしており、少なくとも安全であるとは確認できていないと言える。

放射性廃棄物の投棄は国際的に禁止
IAEA は日本政府の要請を受けて同報告書を作成したが、序文で IAEA のグロッシ事務局長は海洋放出について、あくまで「日本政府の決定である」としたうえで、「推奨するものでも支持するものでもない」と述べている。
つまり、同報告書が海洋放出にお墨付きを与えるものではないことは明らかだ。

ロンドン条約の1996年議定書によれば、放射性廃棄物の海洋投棄は全面的に禁止されている。
ところが、日本政府は同議定書によって禁止されているのは、船舶や海洋構築物からの投棄であり、今回の放出はそれに該当しないとしている。

しかし、今回、東電は海洋放出のために 1 キロメートルに及ぶ海底トンネルを建設している。
これが海洋構築物に当たらないというのは、条約の趣旨を無視した主張だ。

放射性物質を故意に、人類共有の資産である海に流すという行為は、法律以前の道徳性の欠如である。
そうした、当たり前のことを、裁判を通じて世の中に訴えていきたい。

汚染水放出差し止め訴訟
第二次原告団募集開始


汚染水差止訴訟の第一次提訴は9月8日に約151人の原告で福島地方裁判所に提訴した。
弁護団(共同代表は広田次男、河合弘之、海渡雄一)さらに第二次提訴の原告募集を開始した。

原告の適格は、福島、宮城、岩手、茨城、千葉、東京在住者及びその地域からの避難者、さらに全国の漁業関係者である。
裁判における争点を可能な限り減らし、速やかな放出差し止めを実現させるためである。

訴訟費用は13500 円。
参加希望者は10月20日までに下記連絡先まで、E メールかFAXで住所・電話番号・パソコンメルアドを連絡してください。
必要書類を郵送します。

ALPS 処理汚染水差止訴訟原告団事務局
〒970-8045 福島県いわき市郷ヶ丘4-13-5 FAX 0246-68-6930
Ran1953@sea.plala.or.jp

「ふくいち周辺環境放射線モニタリングプロジェクト」からの報告(2)

□双葉郡双葉町 2022 年 8 月 30 日避難指示解除

双葉町では常磐線双葉駅を中心に特定復興再生拠点区域が設定されていて、その地域の避難指示が解除されました。
双葉町北東部の浜野・両竹地区は、2020年3月に避難指示が解除になっていますが、 居住制限が掛かっています。
放射線量は比較的低いのですが、災害危険区域に指 定されているため(津波の恐れ)と思われます。
測定は2022 年10 月と11 月で、 82 ポイント(ホットスポット除く)。
機器の不調で表面汚染計数率が測定出来ない場所があったので平均は出していません。
土壌汚染密度の中央値は、328,000Bq/m²でした。

□双葉郡浪江町 2023 年 3 月 31 日避難指示解除

浪江町では津島と末森と室原、そして大堀の一部が避難指示解除になっています。
大堀では、大堀焼きの窯元に限って避難指示解除になっているようでした。
測定は2023年5月から6月にかけて行い、124 ポイントを測定しました。
土壌汚染密度の中央値は768,000Bq/m²でした。

東電福島汚染(処理)水の最善の解決策
科学技術者 原 野人

東電と政府は福島第一原発で発生した汚染(処理)水を海洋放出しようとしている。

規制値より薄めて放出するから安全だとしているが、絶対量が減るわけではなく、トリチウムが水産物にはいり、人々に大きな 影響を及ぼしかねないことは多くの識者が指摘しているところである。

さらに無視できないことは、セシウムやストロンチウムなどは多核種除去設備(ALPS)で除去されているとはいっても、排出水の絶対量が多いだけに、残存放射性物質の量も多くなる。
これらの海洋への拡散と水産物への蓄積と、長年にわたる人間への影響が懸念される。
漁業者や水産物を好む日本人はもとより、韓国や中国をはじめ近隣諸国民が懸念するのも当然である。

最善の解決策は、海洋放出はやめて、第二原発の敷地にタンクの新設か、セメント固化によって貯蔵させることである。
ここには広大な敷地が遊んでいる。
内径2インチの1本の配管敷設で送水すれば済むことだ。
この敷地を生かすことで、水産業者も日本国民も近隣諸国民も安心安全が得られる。

なお誤解のないように加筆すれば、今日たまっている134 万トンについては、第二原発に移す必要はない。
そのまま第一に貯蔵しながら、新たに発生する汚染(処理)水は第二の敷地に貯蔵を開始すればよいだけのことである。
海洋放出は即時中止するべきである。

もし第二の敷地をこのまま遊ばせていたら、東電や自民党政府は、ここに新規原発の建設をはかりかねない。
さらには第二でいったんは「廃炉」としたほとんど無傷の4機の原発を復活・再稼働させかねない。

つまり福島県民の利益と、東電・自民党政権の利益とはまったく相反するのであり、第二の空き地の第一の汚染水のための活用は福島県民、全国の農漁民や労働者にとって最も有利な方策である。

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