原発事故被害者相双の会の会報132号が届きましたので転載します。

東京電力福島第一原発で日々発生する高濃度汚染水を処理して海に放出する計画が進んでいます。
この会報が発行されるころには、約1キロ沖の海底までトンネルが掘り終わっていそうな状況です。
今回は、本当に「今」、この放出を始めなければならないのか?という点について、3つの疑問点から考えたいと思います。


汚染水が発生するのは、事故発生から12年が過ぎても、いまだ1~3号機の炉内に注水を続けているからです。
また、建屋地下に地下水や雨水が流入し、汚染水の水かさを増やしてしまっているからです。

ざっくり水の収支をおさらいすると、日々の注水量は3基合わせて約200㌧。建屋への流入が約100㌧。うち200㌧は放射性セシウムと塩分を除去して注水に再利用し、残り100㌧はもう一度処理してタンクに貯めていくわけです。
「タンクの容量が残り少なく、炉内の溶け落ちた核燃料を取り出し始めると、その保管施設が必要。
タンクがじゃまだから、早く処理水を海洋放出したい。しかも一番安い」というのが東電の言い分です。

しかし、添付した汚染水関連のグラフを見ていただけば分かる通り、建屋への流入量は年々減っています(グラフA)。
建屋周りの井戸から地下水をどんどんくみ上げたり、敷地を徹底的に舗装して雨が地下にしみ込むのを防いだり、建屋の雨漏りを修理したりと現場の努力の成果です。
東電にしては珍しく、計画より早く目標を達成できている作業です。

地下水位が下がったので、建屋地下にたまる高濃度汚染水の処理も大きく進み、事故発生当初は10万㌧もあったのが、3000㌧まで減りました(グラフB)。
汚染水対策が進むにつれ、タンクの貯水量の増え方もぐっと小さくなっています(グラフC)。
タービン建屋から汚染水はなくなり、あとは原子炉建屋の地下にたまる汚染水さえ何とかなれば、長く続いてきた汚染水との闘いは終わります。

三つの疑問

1つ目の疑問は、そもそもまだ注水が必要なのか?
執筆にあたり原子炉の温度データを見直しましたが、最も高い2号機圧力容器で28度でした。
崩壊熱といって、溶け落ちた核燃料はまだ発熱はしています。
周囲の空気を温めるからこの温度なのですが、再び溶けるような熱ではありません。
何年も前に、原子力規制委員会の更田豊志委員長(当時)が「デブリ(溶け落ちた核燃料)の熱量は、もうコタツのヒーターくらいまで下がっているんだから、空冷にしていいんじゃないか」と会合で東電担当者に迫ったくらいです。

「まだデブリの全体像をつかみ切れていない」が東電の答えでしたが、あれから数年経つのに、減らしたとはいえ、いまだ漫然と注水を続けているのが不思議です。
たまに工事の関係で注水を止めることがありますが、少し温度が上がる程度です。
注水がなくなれば、日々の汚染水発生量は激減し、地下水や雨水対策をゆっくり進めればよくなります。
タンク容量もこれまでのようなペースで増やす必要もありません。

2つ目の疑問は、処理した水の保管場所をどうして福島第一原発内に限定せねばならないの?
原発周辺の国道6号より東側の広大な地域は、除染で出た汚染土を集中的に保管する中間貯蔵施設。
既に汚染土の処理は終盤で、処理プラントは続々と解体され、空き地となってきています。

事故処理の責任は政府と東電が共同で負っているのですから、空いた土地にタンクを新設ないしは移設すればよい話です。
管理区域からの持ち出しの手続きが必要?
その点も政府自らが当事者なので何の問題もありません。
核燃料を持ち出すわけではないのですし。
もちろん地権者の理解と補償は必須ですが。
タンクも大型の3000㌧級は動かせませんが、細めのタンクは、造船所などから海路で運ばれ、原発内を大型輸送車で陸送したものです。

2016年に空撮した証拠の写真を添付しました。
ですから、新設しなくても移設は可能です。

そもそも、溶け落ちた核燃料の取り出しが進むから海洋放出だという理由づけも奇妙です。
まだ炉の中の様子を少し映像に収めただけの段階で、格納容器の上半分と圧力容器については映像情報はゼロの段階。
東電の工程表でも、核燃料取り出しをどう進めていくのかは時期も含め具体的な記載は何もありません。
試験的に耳かき一杯程度の堆積物を採取できたとしても、それらは研究機関で分析にかけられるだけ。
今慌てて、回収した核燃料を保管する施設を確保しないと事故収束作業が進まないなんて状況にはありません。

3つ目の疑問は、なぜ今から放出を始めなければならないのか?
わざわざ耐久性のある溶接型のタンクに造り替えたのではありませんでしたか?

しかも、福島の沿岸漁業は2021年4月からようやく本格操業が始まり、「常磐もの」の評価も戻って東京市場ではむしろ高値で取引されるようになりました。
ようやく漁獲高も事故前の2割強まで戻り、さあこれから失った市場ルートを回復して福島の漁業を復活させようという大切な時期に、責任を負っている側である政府・東電が出鼻をくじくのか。
補償さえすれば漁業が復活するとでも思っているのでしょうか。
どの点を取っても、政府・東電がやるべきことを全てやり、これ以上は無理だから海洋放出以外に手がないという状況からは程遠いと思います。

処理水を海洋放出しなければならない
「3つの理由」は根拠なしの大うそである


政府・東電の説明会での大阪府立大学名誉教授・長沢啓行さんの発言

4月15日に南相馬市で開催された、ALPS 処理水海洋放出について政府・東京電力説明会では厳しい意見がたくさん出されました。
大阪からかけつけた大阪府立大学名誉教授の長沢啓行(工学博士)さんの発言の一部を、ご本人の了解を得て紹介します。
「海洋放出」の理由としてあげられるのは、①タンクは満水になる、②廃炉作業のために敷地を空ける必要がある、③汚染水は今後も発生し続ける、です。
しかしいずれも大ウソだったことは、2021 年4月19日の政府交渉で明らかになっています。

①については、満水になるタンク以外に、フランジタンク(フランジとは、配管継手の一種)解体によるタンク増設可能エリアや空き状態の予備タンク等で計12万トンの余裕があり、これらを転用すれば数年は大丈夫です。
②については、2030 年度頃までの敷地利用計画は5・6号機の使用済み燃料を共用プールへ搬入するための乾式キャスク(キャスクとは使用済燃料の輸送や貯蔵に使われる専用の容器)仮保管施設だけで、将来的に燃料デブリ一時保管施設等という、緊急性のないものです。
③については、現在進めている水位低下作業を続ければ、1~3号原子炉建屋の床面露出は2年以内に可能というものでした。

是非ご投稿をいただき「声」として会報に載せたいと考えています。
◇電話090(2364)3613
◇メール(國分)
kokubunpisu@gmail.com

PDFはこちらから▶▶