原発事故被害者相双の会 会報130号が届きましたので転載いたします。 

安上がりだからと放出はいけない

原発事故以降汚染水が溜まり続け満杯の状況にある。

なぜ原発事故から12年間も対策をやらなかったのか不思議でならない。
事故対策に追われていたからできなかったでは済まされない。

汚染水には高濃度の放射性物質が含まれている。
原発を稼働するにはウランを核分裂させることにより高度な熱を発する。
つまり火力発電と同じ仕組みである。ただ違いはウランを核分裂させることにより自然界にはない放射性物質が誕生することだ。

事故により燃料デブリが原子炉の底に溶け落ち溜まっている、原子炉建屋は地震と水素爆発で壊れてしまい、そこから地下水が流れ込み燃料デブリにふれると放射性物質が溶け込み汚染 水となる。
汚染水はさまざまな放射性物質が含まれている。
セシウム 137、134、ストロンチウム90、トリチウム等々、対策として原子炉建屋をとり囲むように凍土壁を 1,500m、深度約30m掘削して埋め込み周囲の地盤を凍らせて山側から建屋に流れ込む地下水を遮断することだが、それでは不十分であった。

地中壁、つまりコンクリートで遮断すべきであるが、安上がりの方を選んだために大量の汚染水を溜め込むことになった。

その汚染水海洋放出をやろうとするのである。

コスト的には海洋放出34億円、水蒸気放出349億円、水素放出 1,000億円、地下埋設2,431億円となる。
海洋放出が一番安上がりだからというのである。
どれにしても生物に悪影響があると思われるが、海洋放出は絶対に避けなければならない。
そのためにはこれ以上汚染水を増やさない方策が最も重要である。

他に方法はある
建屋に流入し続ける地下水の止水のために次の様な方法がある。

中期的な対策
「サブドレンの増強」(サブドレンとは地下水をくみ上げるための立坑)
汚染水の発生量を減らし、燃料デブリの取り出しをすみやかに進めるための対策、最近でも豪雨時には地下水の流入量が増えている。
そのために設備の増強、正確な運転管理、基準に沿った厳しい監視が必須。

長期的な対策その1「集水井」
集水井は大型の井戸の事。集水井は直径 3.5m、深さ 35~50mで、これを 10 ヶ所ほどに設置する。
さらに、井戸の壁から横方向に、水を通しやすい地層に沿って水抜きのためのボーリングを行う。
なお、集水井は全国の地すべり対策工事で豊富な実績があり、確実で早期の運用が可能だ。

長期的な対策その2「広域遮水壁」
広域遮水壁は凍土壁よりも広い範囲で、深い位置まで設置する。
広域遮水壁は、汚染水が漏えいしたタンク群を囲むことによって、汚染した地域と汚染していない地域とを分離することができる。
遮水壁の厚さは約90 ㎝、総延長約3.7㎞、深度 35~50m。
凍土壁より規模が大きいにもかかわらず、費用は凍土壁の半分程度、工期も数年程度。
広域遮水壁の建設には、「地中連続壁工法」(地中連続壁とはコンクリートや粘土などを用いて、地中につくられた壁)と呼ばれる実績のある工法を用いる。

汚染水を出さない方策を早急に
この対策をやらない限り永久的に汚染水は出るのであり、このまま続けるとしたら無責任にも程がある。
例え微量であっても放射能に安全はなく毒である認識で取り組むべきである。


今ある「汚染水」をどうするか
―第2原発敷地の利用を


2022年7月時点で、地上のタンクの保管されている「汚染水」は、130 万㎥を超える。
これを海洋放出せずに、安全に保管することが必要、トリチウム以外の放射性物質については、リスクを下げるために確実な処理を行い、基準以下にすることが必要。

トリチウムの半減期は 12.3 年なので、100 年間保管すれば、トリチウムの濃度は約 0.35%まで減少する。

第二原発はすでに廃炉と決定されている。
この広大な敷地に新たに建てられる設備といえば、使用されていた燃料棒を水冷プールから引き上げ、いずれ空冷に移行するための建屋くらいのものである。
空地は広い。ここに汚染水貯蔵タンクを造って、内径2インチか、せいぜい4インチの1本の配管を敷設して輸送すれば、まだ何十年でも貯蔵できる。
たとえ放水するとしてもトリチウム(半減期12.3年)を十分に減衰させてからできる。
タンクよりも第二原発敷地にセメント固化して貯蔵(建屋を作って半永久的に保管)することもできる。

希釈しても絶対量は不変

第一原発から海洋放出するさいには、国の排出基準の四十分の一未満にまで海水で希釈しながら放出するから心配は無要だと説明しているが、四百倍に希釈しようが四千倍に希釈しようが、放出されるトリチウムの絶対量は不変である。

放射性セシウム 137(半減期30.0年)やストロンチウム 90(同28.8年)等は濾過されているとはいっても、汚染水の量が多いだけに残存する総量は無視できない。
その点からも第一原発での放水計画はやめて第二原発に送り、セメント固化か長期のタンク貯蔵にすべきである。

1 月 21 日三春町民交流館「まほら大ホール」にて行われた小出裕章講演会「放射能汚染水はなぜ流してはならないか」の閉会挨拶を一部補正してまとめたものです。
講演会は県内各地からの 350 人を超える聴衆を集め成功のうちに終えることができました。

今日のお話から私の理解できたところをまとめますと

・今回の事故により、私たちは否応なく大量の放射能を浴びせられ、被曝者にされた、それは今も続いているということ

・今続けられている事故の後始末ばかりでなく原子力の利用には大量の被曝が避けられないこと(もちろん安全な被曝などはない)

・この事故について、その責任をだれ一人取ろうとしないこと

・つまり原発は、他人に犠牲を押し付けるという差別構造なしに成り立たない事業であることが改めて浮き彫りなりました。
(その責任の一端はこれを許してしまった私達にもあることも)そして、この差別と分断は、被害者である私たちの間にまで持ち込まれていることは、日々見もし聞きもさせられているとこところです。

小出先生が言われる「原子力マフィア」の支配とは、かつてオーストリアのジャーナリスト、 ロベルト・ユンク(註1)が原発は人民のあいだの信頼と連帯を破壊して推進される(破壊せずに推進出来ない)として、原発政策をとる国を「原子力帝国」として告発していた事態にほかならないことが改めて、良く分かりました。

今日の講演を聞いた私たちの課題は、破壊された人々の間の信頼と連帯の回復へ向けた取り組みこそが求められているということなのです。

一言でいえば、民主主義の回復・実現こそが課題なのです。
県内の自治体の 7 割以上の議会は汚染水の海洋投棄には反対・慎重にとの政府への意見書を採択しているのです。
もちろんわが三春町も反対の意見書を政府に送っています。

この民意の実現こそが果たされるべき課題なのです。
汚染水の海洋投棄をめぐる国際団体の動きに明らかなように、この問題は一福島、日本一国の問題ではないのです。
小出先生のお話でも明らかなように「放射能汚染水なし、汚染水を出さない」では原発はあり得ないのです。
今度の政府の原発政策の推進へ大転換と汚染水放出強行とは一体なのです。
ということは、汚染水放出を止めれば、日本の核推進政策をも止められるということなのですし、影響はもちろん全世界に及ぶでしょう。
国際化・グローバル化が言われて久しいですが、世界の課題は福島の課題なのです。
世界を支配する原子力帝国を倒し人権の実現を目指すという課題・目標は同じままなのです。
私たちの先人に恥じぬ、そして後続の世代につけを回さない行動が求められているのです。

本日の講演を機に、一層決意を固め人々の信頼と連帯を回復することを通じて核のない世界のため手を取りあっていきましょう。
何としても汚染水は止めましょう。

西尾正道講演会のお知らせ
(北海道がんセンター名誉院長)

政府は処理水を海洋放出する方向で進んでいますが、環境・健康影響不安と風評被害へ賛否両論がありますが、情報不足から判断できない状況にあります。
そのために専門家の西尾正道先生に依頼し講演をいただくことになりましたのでご案内いたします。

日時 2023 年4月1日 午後2時~4時
場所 相馬市総合福祉センター(はまなす館)
住所 976-0013 福島県相馬市小泉字高池 357 Tell 0244-36-1905

是非ご投稿をいただき「声」として会報に載せたいと考えています。
◇電話 090(2364)3613
◇メール(國分) kokubunpisu@gmail.com

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