原発事故被害者「相双の会」会報60号が届きましたので、転載します。

 


今年3月31日と4月1日の帰還困難区域以外(双葉町、大熊町を除く)が解除されて一ヶ月、 帰還状況は10%に満たない。
日中は少し人影があるが午後から夕方になると人影がなくなってくる。
浪江町は殆ど見られない。
もう原発事故から6年も過ぎているので、除染したばかりの時は、確かに線量は下がった。
しかし時が過ぎれば元に戻っているところがある。
「これじゃこの地では子育ても出来ない」というのが若い方の言葉として出てくる。

国や自治体は帰還させるのに躍起になっている。
被害者は高齢者から子どもまで追い詰められ希望もなくしてしまっている。
子どもはこれ以上転校させてはならない。
友達がいていろいろと学び成長していく、その芽を摘んではならない。
働き盛りの方は家族を守るために原発事故で失った物を取り戻すために必死に働いている。
しかし働いても働いても低賃金に抑えられ一向に楽にならない。
原発事故さえなかったら家業を継ぎ家族全員で安心した生活ができた。
高齢者は慣れない避難先で馴染める訳がない。
何十年もかけてつくりあげられてきた地域のコミュニティがそんな簡単にできるものでない。
しかし帰還したくても、家族と別れて若者のいない故郷へは帰れない。

原発事故でハッキリしたのは何代も続いた地域を全て失う事、二度と元に戻らない事、被害者は放射能と向き合って生きていかなければならない事ことだ。
事故責任は前橋地裁判決で明確になったが、賠償責任では無責任な判決だった。
司法は被害者を守ると誰でも思う。
何のための司法なのか正して行くのも原発裁判訴訟だと思う。

二年前の双葉町郡山仮設住宅集会所での懇談を思い出す。 現在は仮設住宅入居者も少なくなりそれぞれが新地での生活になっていると思われるが、口々にこう語っていた。

「もう住めないとは思っている。それでもふる里が恋しく帰りたい。」
「ふる里の悪い思い出など何一つ無い。」
「ふる里は世界で一番良いところです。」
「原発などつくってご先祖様に申し訳ない。」
「私が死んだら放射能などいくら高くてもいいからふる里の墓に入れてと願う。」
「もう息子たちは帰って来ません。帰って来いとも言いません。どんなになっても家族が心配ですから。」
「息子たちと新天地に行きます。知人友人、親戚もいない所に行くのは不安でなりません。」
懇談中にも涙ぐむ方も出てくる。
また黙り込んでしまう人もいた。
こういう思いに司法も国も耳を傾けよと、心から思う。


福島県の県民健康調査検討委員会のデータ(2016年~)によると、「甲状腺がんまたはその疑い」の子供が 183人。
そのうち 145人にがんの確定診断が下っている。
まだまだ増えるということだ。
この実態を見て、医師の鎌田實さんが、福島の甲状腺がんの発症について弟子で、チェルノブイリで長年子どもの甲状腺がん治療にたずさわってきたロシア人医師のユーリーさん(今年3月急逝)との会話を紹介している。

「甲状腺がん検診で見つかったがんについて、日本では、見つけなくていいがんを見つけたという意見もあるが、どう思うか」と聞くとこう語った。

「子供の甲状腺がんは、リンパ節転移する確率が高いのが特徴。ベラルーシ共和国で手術せず様子を見た例と、手術をした例とでは、子供の寿命は格段に違った。手術すれば、ほとんどの場合、高齢者になるまで健康に生きることができる。」
「見つけなくていいがんを見つけた、なんて言ってはいけない。見つけたがんは必ず手術した方がいい。数年経過を見たこともある。すると、次にする手術は大きな手術になった」
「だから、見つけたがんはすぐに手術をした方がいい。それが 30年間チェルノブイリで甲状腺がんと闘ってきた自分の考えだ。」

「福島県だけではなく、周辺の県も検診をした方がいいのか」と聞いたら、「コストの問題だ」 という。
「お金に余裕があるなら、やるべきだ」というのが彼の考えのようだった。
ユーリーさんの長い経験から、鎌田實医師はこう福島の若者にエールを送る。
福島県などの「検診を縮小しようとか、希望者だけにする」ような動きは「とてもまずい」、事故との関係は「チェルノブイリでも7~8年かけて因果関係が証明されていったことを考えると、 臭いものに蓋をするようなことはよくない。」
ロシアの罹病した子どもたちは「隠れたりせず、堂々と生きていた。…彼らと交流させて福島の若者も元気になってもらいたい。大きくなって、 好きな人ができて、子どもを産んだ女の子たちもたくさんいる。…家族が悪いわけでもない。… まず勇気をもって立ち上がること…日本の空気に負けないで、新しい波をおこす若者になってほしい」。
(『ジャパン・ビジネス・プレス』4月19日号から)

 

 

皆様
家田修と申します。
東日本大震災後のある日、私は「学問は災害とどう向き合うのですか?」と市民から問われました。
大切な問いです。
以来、私の勤める北大に専門研究者、被災者のみなさん、支援団体の方がたなどをお招きして、札幌市民と共に「一緒に考えましょう講座」を五年あまり続けています。

また文部科学省やトヨタ財団から助成を受け、離散してゆく飯舘村を映像と文書に記録し、チェルノブイリと交流し、全国の若手を含めて、原発事故に社会はどう対応すべきなのか、災害の苦痛をいかに緩和できるのか、被災者の生活再建に必要なことは何かを、探し続けております。

2016 年 11 月に私は EU に呼ばれて、福島を語りました。
経済、医学、原発行政の講義ではなく、私に求められたのは、日本の被災者がどのように暮らしているのかを話して欲しいという課題でした。
ヨーロッパには多くの原子力発電所が存在します。
フクシマを他人事だとみていないのです。

「原発事故でいったい何が起こるのか」を福島から学びたい、教訓を生かしたいという、ヨーロッパ市民の熱意と出会いました。
不幸なフクシマの経験の中に、世界と助け合う明かりが見えた思いでした。

チェルノブィリ事故については、冷戦時代のソ連だったため、分からないことばかりです。
30年が経った今、チェルノブィリ被災者を訪れて語っていただくと、予期せぬ市民の力や、子供を守る親の心が旧ソ連を底から動かしていたことが分かってきました。
これは未来に伝えなければならないことです。

避難されている皆様にとって、不条理で、語りつくせるはずもない震災後の日々ですが、皆様の体験と思いを埋もれさせてはなりません。
とりわけ、自らの意志で自主的に避難された方の意見が把握されていないのです。
6年目の今年は、被災者、避難者の生活がまたも流動する大きな変化が予定されています。
「強制的に避難させられた人がこんどは自主避難者になってゆく。
私のような自主避難者の存在そのものは、無かったことにされるのかなぁ」という知人の言葉が重く響きます。

まことに僭越でぶしつけですが、皆様の御体験を私どもに聞かせてください。
皆様の声を留め、社会に反映させ、未来世代につなげてゆくために、御協力を心よりお願いいたします。

様々なアンケートを求められ、お疲れの方は多いでしょう。
既存の調査を私も参照し、同じ質問の繰り返しを避けたいと思います。
むしろ御自由にお考えや御体験を記入していただければ幸いです。
アンケートに御参加いただいた方の個人情報が、調査以外に用いられることは決してありません。
個人名が特定されることもありません。

アンケートの形としては、まず基本情報、続いて震災以降の御自分の体験や経過を、時間の流れで書き留めていただき、次に、節目、節目の御決断について、お気持ちや、困難なこと、役立ったこと、伝えたいことなどを、御記入いただくようになっています。
記録を残すことは過去の忘備録となるだけでなく、将来に役だつ手がかりにもなります。
御記入いただいたアンケートは、皆様ご自身の大切な記録ですから、全て、責任を持って、お手元にお返しいたします。

2017年4月
北海道大学特任教授
家田修

専門はスラブ・東欧の地域研究。
原発災害や難民問題についての市民講座を運営
*近日中に各地の避難者の方にアンケートをお届けしますので、よろしくお願いします。(相双の会事務局)

 


まだまだ、問題が山済みで,大変な状況は変わりませんが頑張っていきましょう。
今年中に、この訴訟の問題も,廃炉の問題も一定のめどがついてくれることを望むばかりです。

 

こんにちは。「相双の会」57号、いただきました。すでに6年が経とうとしていますね。
被害者の皆さんにとっては、長い長い6年だったはずと思います。
命を絶つ人も続いて きましたし、これからも続くのでしょう。
それなのに、加害者は誰一人責任を取らず、原発再稼働に向かっています。
呆れた国だと思います。
選挙をすれば、自民党が勝ってしまうという状況が続いていて、無力感も感じますが、事実を伝えることは諦めずに続けたいと思います。
お元気で、お過ごしください。(小出裕章)

 

会報いつもありがとうございます。
私も NHKスペシャル見ました。
人が生きるためのすべてを原発事故によって破壊され、頑張ろうとしてもスタート出来ないもどかしさを肌に感じました。

 

いつも情報有難うございます。
読んで涙が出てきます。
ホントにこの国は民主主義国家なのか。
憲法とは何なのか考えさせられます。

 

会報57号、ありがとうございます。
メンバー全員に配布します。
帰ってもいい、と言われても、13パーセントの人しか帰れない。
この実状を政治家はどう考えるべきか?それが一番大切なことだと思っている私です。
感謝

 

「相双の会」57 号ありがとうございました。
毎号毎号、心の痛む、みなさまの声を読んでいます。
私も、講演会では、みなさまの置かれた現状をお伝えするように努めています。
まことに、テレビと新聞の無報道にあきれるばかりです。
それが最大の問題だと思います。
恥ずべきジャーナリストたちではないでしょうか。
大変と思いますが、これからも、相双の会の通信を、お届けください。
心からのお願いを申し上げます。(広瀬隆)

 

57 号を読ませていただきましたが、福島は6年たってもまだこの程度なのかと慨嘆するばかりです。
私の古里富岡も4月1日に解除するようですが、最近の町のアンケートでは「戻りたい16%」「戻らない 53%」です。
残りの 31%の 町民の決めかねている気持ちを思いやると、東電の罪の深さ、行政の頼りなさをつくづくかんじますね。
随分前に県会議員の吉田栄光さんが、環境大臣に山や森の除染を申し入れたことがあり、その時、当時の大臣は前向きに回答していました。
これなども行政のいい 加減さの典型だと思いますね。
とにかく今年も前をみてやるしかありませんね。

 

 

「相双の会」会報に ご意見を
是非ご投稿をいただき「声」として会報に載せたいと考えています。
匿名でもけっこうです。
◇電話 090(2364)3613
◇メール(國分)kokubunpisu@gmail.com

 

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