原発事故被害者「相双の会」会報59号が届きましたので、転載します。
全国1万6千人の裁判闘争でさらに前進を
原発事故被害者相双の会会長・國分富夫
3月17日、東電と国を相手取った訴訟で前橋地裁は、国と東電の賠償責任を認め、避難指示区域内原告72名中19名に350万円~75万円、自主避難区域内原告58名中43名に73万円~7万円の支払いを命じました。
評価すべきは次の2点です。第1に東電は国の地震調査推進本部の長期評価などで、非常用電源を浸水させる津波の到来を予見していたのに、「経済的合理性を安全性に優先させ」て事故の回避策を採らぬ重過失を犯したと認めた事。
第2に国は東京電力に対して、事故の回避措置を取らせる権限を有しながらそれを怠ったと認めた事。
非常用電源の浸水の予見は可能であったことは、国の事故調査委員会報告などでひろく認められていましたが、初めて司法の場で東電と国の加害責任を断罪しました。
判決では、原発は事故を起こせば「取り返しのつかない」「生命を含む極めて重要」な被害を生じ、かつ「被害者が極めて広汎に及びうる」と指摘しました。
「容易」に出来たはずの回避措置すらとらなかった東電は断罪されて当然です。
私たちからすれば、そんな危険な原発をつくること自体が間違いだといいたい。
福島第1の事故は簡単な工事で防げたかもしれませんが、大地震の震源の上にたくさんの原発があり再稼働し始めているのです。
しかしともかく、やっと避難者は「被害者」として認められました。
言いた いことも言えず「運が悪かった」ように見なされ、加害者である国と東電の一方的な対応に涙をのんできた被害者が胸を張れるようになりました。
もう一つ判決で大事なのは、「自主」避難も含めて「単なる不安感や危惧感にとどまらない程度の危険を避けるために」避難したとみなしたことです。
しかし原告が求めた慰謝料とは程遠い低額な賠償しか認めませんでした。
しかも多くの方が、 東電が既に支払った賠償金を控除するとゼロ回答として対象から排除されました。
私たちも原告として、この6年間の思い出したくもない、人には言えないような苦労や悩みを法廷で、懸命に訴えてきました。
前橋の法廷でも、コミュニティーが奪われ家族がバラバラにされ避難先で差別された実態を切々と訴えたのに、とても納得いかないでしょう。
9月には千葉地裁判決があり、わたしたちの「福島原発避難者訴訟」福島地裁いわき支部も10月に結審、来年3月判決です。
1万6千人以上の各地の原告団のたたかいで、前橋判決の積極面を確保しつつさらなる前進をはかりたいと思います。
―小野寺利孝弁護士の講演(抜)
*小野寺利孝弁護士を迎えて、2月19日に山形県山形市でこの間「相双の会」を支えてきた皆さんが講演会を開催しました。
大変貴重なお話でしたので、私たちの原発避難者訴訟に関する部分の要旨を掲載します。
見出しは編集部でつけました。
原発被害裁判の本命
2012年12月に起こした福島原発避難者訴訟は、被害者総数で 584名、強制的に避難を強いられた方の裁判です。
昨年3回にわたり 相双地域の現場検証を裁判所はやる、他の裁判では生業で2回、群馬1回と言われていますが、裁判所が中山間部まで入って現場検証を丁寧に三日間行ったのは画期的です。
また この3月にはふる里喪失は避難者訴訟では最大のテーマですけれども、環境経済学者の大阪市立大学教授の除本さんが、6年間現場に入りコミニテイがどう変質変容していったのか、原発被害の特徴は、ふる里を根こそぎ奪ったことにあり、ふる里を戻り得ないような状況を、これから何十年と続けるというところにあると我々は立証してきたのですが、その ポイントを除本証人でやります。
他方で一次 二次の原告さんを全部所帯ごとですが立証を続けていく、一日の裁判で二つの法廷を使って 10人やっています。
丁寧に被害の実相に向き合い、そして裁判官がしっかり受け止める。
こういう姿勢でやってきた避難者訴訟に特化した一番大型の訴訟はここしか無い。
あとは みな自主避難者と強制避難者との合体した訴訟で、そういう意味での原発公害被害者本命の闘いになる。
被害者を分断させないための裁判
福島原発避難者訴訟は東電だけを被告にしています。
あえて国を被告にしない主旨は、 第一義的な公害発生源責任は東電にあると同時に、東電についての無過失責任ということを前提にした賠償スキームがつくられて、原賠審が加害者指導で賠償システムをつくり、 賠償基準をたて、そして銭金で黙らせる。
一部の被害者に賠償を払うことによってその他の被害者には賠償を払わないという形で分断する。
賠償を受けた人たちがあたかも、特別待遇を受けてるように見られて、被害者だが賠償を受けていない人たちからは怨嗟の的になる。
そして同じ被害者でありながら指定解除されて、どんどん賠償を打ち切られていく、 最後に残るのは帰還困難区域だと言われていますが、これも 2020年には解除すると言うことであり、最終的にはオリンピックの時は被害が無い。と言うところへ安部内閣は一貫して持って行こうとしている。
その意味での政策に真正面から切り進むには損害論を中心にしたまっとうな司法判断を獲得することが全ての被害者にとって喫緊の課題だとして起こしたのが避難者訴訟です。
獲得目標は東電の不法行為責任と賠償、適切な司法判断を得る。
自分たちの賠償だけを取れば良いという考えはない。
例えば今強制避難者料は 10万円出ています。
ふる里喪失についての賠償は基本的にはありません。
ふる里喪失については2千万円の慰謝料を請求しています。
また避難者料で 50万円請求しています。
仮に現行の10万円を越えた避難者料が認められる場合は、それは全ての同質の避難者の人たちに及ぶという前提です。
国を被告にしてしまうと最高裁まで、あるいは訴訟が長引く、賠償基準を巡っても国の賠償基準も問われて行くわけで、どうしても低額になっていく可能性もある。
そんな戦略的な位置づけで東電だけを被告にした訳です。
加害者に賠償基準を決めさせてはならない
仮に司法判断で国に責任ありません、東電は賠償責任を負うべきだけど不法行為責任はありません、と言うことになれば、原賠審が決めた低額賠償基準あるいは ADR でやられている個別和解での若干の救済が、全ての原発公害被害者の救済基準に定着します。
それは加害者が決めた基準です。
どんな公害事件でも、交通事故であっても、加害者が自ら謝罪もせずに倍賞基準を決めて「これで良いだろう」「これで良ければ払ってやる」「申し出なさい」と言い、審査して基準に一括したら払ってやる。
こんな馬鹿げたことが実はこの6年ずーとまかり通っているわけですからそれが定着してしまうと言うことにもなります。
第二第三の原発公害というのは充分起こりうる。
仮にそれが起こった場合にはさらなる膨大な被害者が泣き寝入りを余儀なくされる。
しかし判決で国、東電が責任を断罪されれば原発を続ける事ももはや許されない状況がつくられる。
これからの脱原発との関係でも決定的に重要な判決になるだろうと思います。
棄民政策の抜本的転換を
裁判の眼目は、棄民政策の抜本的転換です。
「子ども支援法」も骨抜きになってまったく機能していません。
つまり国の責任を認めて国家補償として被災者救済をやらせることです。
それを実現していく力を勝訴判決は私たちに託すであろうと確信します。
そういう意味では国家補償としての原発公害被害者に対し人間の尊厳、人権を尊重する権利救済策の確立、と言うのが眼目です。
兵庫医科大学 振津かつみ
全ての原発事故被害者に「健康手帳」の交付等、被爆者と同等の法整備を
現行の被爆者施策は、広島・長崎の被爆者と自治体、原水爆禁止運動が長年にわたって国に求め、次第に法整備されてきた。
未だ残された課題は多くあるが、被爆者自身が、差別を乗り越えて「基本的人権」の回復を求め、 戦争もヒバクも「二度と繰り返させない」と強く訴える中で実現させてきた施策である。
放射線影響研究所による原爆被爆者の「寿命調査」では、固形ガン死のリスクには「閾値」がないことが、2012年に報告された。
また同じ線量の被曝であれば、急性被曝と慢性被曝のガン罹患リスクは、ほぼ等しいとの評価が国際的には主流である。
浪江・双葉町からは、2012 年6月、無料の健診・医療、長期的な健康確保のための諸手当の支給、「放射線健康管理手帳」の交付など、「原爆被爆者手帳と同等の法整備」の要請が国に出されている。
国は、全ての原発事故被害住民と被曝労働者に「健康手帳」を交付し、生涯にわたる健康管理と医療給付を行うべきである。
そのためにも、広島・長崎の被爆者の経験と援護策、健康影響調査の結果を、原発事故被災地の健康管理と医療支援に活かすべきである。
現在、避難指示区域等の人々に対しては、医療保険、介護保険の保険料と窓口負担の減免措置が取られている。
しかし、この措置は、事故によって被曝をさせられ健康リスクを負わされた被害者に必要な、長期にわたる健康管理と医療を保障するための措置として行われているわけではない。
あくまで「災害による避難者」に対する生活支援の一環である。
今後、「避難解除」が進む中で、「自立」「復興」の名の下に、これらの支援措置が打ち切られることが危惧される。
健康と命の問題は、避難した人、しなかった人、帰還する人、しない人、原発事故被害の様々な条件による区別なく、福島県とその周辺県を含む、事故によって被曝させられた全ての人々と被曝労働者の共通した課題として、取り組んでいくことが重要だ。
除本理史さんが証言
-10 月結審、来年3月判決
3月22日に開催された「原発事故避難者訴訟第22回」期日の原告側証人に、大阪市立大教授の除本理史さんが立った。
除本さんは事故直後から福島に足を運びつづけ被害者の声を聞き、『原発賠償を問う』(岩波新書)など多くの著作で、広く世の中にアピールしている。
除本さんは法廷で2時間にわたり生々しく被害の深刻さ、被害者の気持ちを証言した。
◇第 23 回期日
4月19日10 時~ 福島地裁いわき支部
◇第 24 回期日
6月21日10 時~ 福島地裁いわき支部
◇結審 10 月予定
◇判決 2018 年 3 月予定
是非ご投稿をいただき「声」として会報に載せたいと考えています。
匿名でもけっこうです。
◇電話 090(2364)3613
◇メール(國分)kokubunpisu@gmail.com