原発事故被害者「相双の会」会報96号が届きましたので、転載します。

原子力緊急事態宣言と
新型コロナウイルス緊急事態宣言

二つの緊急事態宣言が発令中である。
コロナの緊急事態宣言はともかく、原子力緊急事態宣言は発令されてからもう既に 10 年目である。
それでも何故解除されないのでしょう か、不思議でならない。

安倍首相は、2013 年の五輪 IOC 総会で、原発事故後の汚染水は 「アンダーコントロール」されているから安心して東京でオリンピック開催を、と嘘の宣言をした。
その結果 2020 年オリンピックが東京に決定したのに、 原子力緊急事態宣言は解除されていません。

汚染水は今も増え続けています。
廃炉に向 けて取り組んでいるものの最終処分場が決まっていないままです。
廃炉に 40 年とか 45 年とか言われるが完全廃炉はできるのか見通しがたちません。
また廃炉作業には危険が伴い今でも落下物など事故が絶えません。
何時 どんな事態が生じるか分からなく、放射性物質が放出されたら取返しのつかない事になります。

今なお、緊急避難できるように常時ガソリンを満タンにしている人が福島にはたくさんいます。

「原子力緊急事態宣言」のために20ミリSv以 下基準を強いられています

安全基準を勝手に決めて、被害者を、国民を愚弄するようなことをするとは情けない思いです。
被ばく量は年間1ミリSv以下でなければならないというのは日本の法律だけでなく世界の常識です。
それを「緊急事態」だからと、20 ミリSv以下なら安全とされ、私達にレントゲン室以上の「基準」で生活をしろと、1 0年も強いてきたのです。

除染土を中間施設に搬入し、開始後 30 年以 内に最終処分場へ移すという約束でしたが、 除染土があまりにも多く中間貯蔵施設に入り切れないとみるや、8,000 Bq以下は道路や河川などの公共事業に使うと宣言しました。
何のために巨費を投じて除染したのか分かりません。
福島第一原発事故による放射性物質は広島原爆の 168 倍と言われていますから大変な事態なのです。
情けなく恥ずかしい事ですが、公共事業に 「除染土をアンコのようにして使えば、安全だ」などという無能力市会議員がいるのです。

汚染水海洋放出の企み

原発敷地内の汚染水用タンクの設置場所が無くなりつつあります。
フランスから導入した ALPS(多核種除去)装置も、トリチウム等の除去は困難。
現在、ALPS 装置で処理した後 のトリチウム等汚染水は約 100 万トンがタンクに貯蔵され、現在も溜まり続けています。
政府と東電は、汚染水を薄めて海洋放出しようと目論んでいます。
しかし専門家や県の漁 業協同組合、ほとんどの市町村長が反対をしています。
それでも国は海洋に放出は安上がりだと誘導しています。

このように原発事故による放射能公害は今でも何時どんなことが起きるか分からなく、「原子力緊急事態宣言」は、解除しようがないのです。

命優先の政治に

新型コロナウイルス感染症にたいして、他国はいち早く対策をしてきましたが、日本はギリギリまで対策をしませんでした。オリンピック招致を優先させたのかもしれません。
しかし国民の命と健康を第一に考えたときに五輪どころでなかったはずです。
流石にコロナまで「アンダーコントロール」とは言えなくて、3月終わりころに一年延期になってからコロナ対策に本腰いれたのですから、他国から大幅に遅れました。

政府の医療機関への支援が不十分で、医師が検体を採取する態勢を整えられていません。
首相は「外国より日本の感染者が少ない」と、強調しましたが、「他国より検査できていない感染者が相当いる可能性がある」と、専門家は指摘しました。

国は医療に金がかかり財政を圧迫していると軽視してきた結果、入院施設不足、検査機能不備が目立ちます。
コロナウイルスは肺炎重篤者が多いにも拘わらず、外国から見れば不足しています。
人を殺す戦闘機はどんどん買い集める間違った政策は変えていかなければならないでしょう。
災害は大型化しています。

昨年の 19 号台風の災害工事がまだ終わりそうもない状況ですが、間もなく台風シーズンがやってきます。

自然エネと風力のポテンシャル
風力は日本が世界で最も恵まれている天然資源だといってよい。
ところが世界諸国で風力発電が急速に普及しているのに対し、日本ではさっぱり伸びていない。
自給率向上どころではない。

日本の風力ポテンシャルと総発電設備
環境省は風力の導入ポテンシャル(潜在発電能力)を、国内の陸上で2億8千万kw、 洋上で10億kwから16憶kwと見積っている。
経産省は陸上で2億9千万kw、洋上で15億kwと算定している。
ちなみに現在の日本全国の総発電設備容量は2億4千万kwである。
風力だけで全電力を賄うことも決して困難なことではない。
ところが電力会社と自民党政権は原発を従来から「重要なベースロード電源」とし、石炭火力なども「基幹電源」としていて、全国にきめ細かい送電網の拡充・整備を怠っているため、潜在的能力が極めて大きな風力発電は一向に伸びない。
せっかくある基幹送電網の多くは、原発再稼働を待って空けられている始末である。

今すぐに必要なこと
原発の即時全廃のためには、当面は石油や天然ガスによる火力に重きを置き、既設の石炭もしばし許されるとしても、新設は高効率な天然ガスのコンバインド発電に限定すべきである。
それとともに、第一に、電源開発も10電力も、全国の洋上に大型風力発電基地を造り、第二に、陸地では低周波音波公害の防止に民家等から一定の距離(2キロメートル以上)をとりながら、特に高圧送電線に連系できる丘陵地や山岳地帯をはじめ全国の適地に風力発電を造ることが不可欠である。 (原野人)

仙台高裁判決に想う
浪江町 埼玉へ避難 菅野美智子

2020年3月12日は福島第一原発関連の高裁判決第一号となる日である。
心を震わせながら判決を待った。
全国から多くの支援者が参集した。
マスコミも何時もより多い。
気持ちの中には原告、弁護士の先生方々もやるだけの事はやった。
必ず被害者の立場に立った判決が出るだろう。
それとも被害者をどん底に陥れるような判決だったらどうしよう、と息苦しい。

午後2時判決文が読み上げられ、東電に対し「津波対策工事を先送りにしてきた」 と断罪、 「被害者の立場から率直に見れば、このような被告の対応の不十分さは、まことに痛恨の極みと言わざるを得ず、その意味で慰謝料の算定に当たっての重要な考慮事情とされるべきものである。」と東電の対応の悪質性を厳しく批判した。

故郷を奪われた私たちの苦しみを応えていただいた内容であり、涙が止まりませんでした。

私が裁判に臨んだ理由は、当時3歳になったばかりの孫のためでした。
いつか将来、自然に恵まれた素晴らしい浪江町に生まれてきたことを伝えたく頑張ってきました。
今では覚えてなく、避難先で元気に育っています。
「ばあー頑張ったよ」と、いつか伝えたいですね。

司法に正義があったんだと言う事を導いて頂き、手弁当で頑張ってくれた弁護士先生はじめ、いわき市民の方、全国の支援者の皆様方に感謝申し上げます。

東電の体質は今更ながら期待できることはないと思いますが、話し合いによる解決で被害救済を先延ばしすることなく、長期 化させないでいただきたい。
先の見えない私たちを最後にして頂きたいです。

附帯上告しました
3月12日の仙台高裁判決を受け、原告団と弁護団は、東京電力に対し「上告をせずに判決に従うこと。謝罪し判決にもとずく賠償を実施すること」などを求め、2回にわたり交渉しました。
しかし東電は仙台高裁判決を真摯に受け止めることなく、不当にも3月 26 日に上告しました。
その結果、残念ながら好むと好まざるとに拘らず、引き続き上告審の手続きとなります。
上告審では、上告した者の不服の範囲でのみ審理が行われます。
つまり東電の上告だけだと、万が一にも、最高裁で仙台高裁判決が変更されるようなことがあれば、東電の求める方向にしか変更されないことを意味します。
そこで、私たち被害者である原告においても「付帯上告」をすることにより、最高裁の審理は、原告が求める方向にも審理が行われることが可能になりますので、皆様のご協力を頂きながら完全勝利に向けて闘って参ります。

福島の皆様へ
身に沁みます―新型コロナと放射能
東京南部・K

福島の皆様を陰ながら応援させていただ いている東京在住の者です。
応援と言っても毎年大田の皆さんが企画して下さるバスツアーでうかがい、原発被害に今なお苦しむ現地の皆さんの苦労の一端をうかがうだけです。

御承知のように東京は4月29日時点での コロナ公表感染者数だけで 4106人、亡くなった方は117人で、感染が判明した人の 3%が死亡です。
とくに 70 歳以上の方や 糖尿病・癌などの方の 2割が重篤になるそうですが、「生き別れ」を覚悟します。
見舞いも、見送りも、御棺の「対面」もできず、葬儀は数人にしぼられます。
ですから 戦々恐々の日々で、容体が悪ければ一刻も早く PCR 検査を受けたいのは当然です。
ところが国も東京都もいったいなにをしているのか、検査に大多数の方はたどりつけません。
東京の検査数が最近は平均一日に 400 件足らず。
これでは陽性者は 1 日 200 人をみつけるのがせいぜいで、4 月末には 3 回続けて 40 人前後しか公表されず、ますます公表数字が信用できず不安だけが募ります。
新型コロナの一番恐ろしいところは、 感染力を持つ軽症者やまったく自覚症状のないものがたくさんいて、出歩き通勤し、 多くの方にうつしてしまうことです。
通院しても、看護師さんやお使者さんにうつしてしまい、「院内感染」が始まり、大きな病院がたくさん機能マヒになっています。

残念なことに東京の人を見たら危ないと思われてもしかたないです。
今お医者さんや看護師さんが隣近所から疎んじられています。
医療関係者の子どもは遠慮してくれと保育園からいわれることもあるそうです。
近県の市が東京から来た者は数日間ホテル か自宅にいてくれ、と要請すると聞いてビックリしたのが 4 月のはじめ、今はそんなもんじゃなくなり、とにかく家に閉じこもるしかない日々です。

連想するのは放射能被害のことです。
国や行政は事実を明らかにしようとしない。
線量計を除染した場所や地面から高いところに設置していた光景を思い出し、甲状腺がん発症率のごまかしも同じだなと感じます。
東京ナンバーの車が警戒されるのも、 福島ナンバーへの差別と同じ。
もっともコロナは差別はいけないが絶対に区別しないといけないので、福島差別は本当にデマの結果でしょう。
休業補償や賃金助成もせずにただ「自粛しろ」だけしか言わない政府の姿は、損害賠償もケチる。東電の姿そのまま、自宅に居たいが、食べていくために 通勤しなければならない人もいます。
電車は普段の 4 割くらいでが、テレワークできる大企業社員のスーツ姿は消え、作業着風の方が多いです。
悲しくなります。

「緊急事態宣言」を出したのは、命の危機を認めたからなのに、検査や感染防止策を怠るのは「業務上過失致死」じゃないでしょうか。
東電幹部が津波到来を知っていて対策を怠ったから、業務上過失致死罪で起訴されたことを思い出しました。
日々福島の事故被害者の苦労をしみじみ感じております。
どうか皆様もコロナへの警戒をゆるめず、しかしコロナ差別はしないでください。

>>PDFはこちらから