原発事故被害者相双の会 会報117号が届きましたので転載します。

誰にも迷惑かけず 70 数年生きてきた

原発事故から故郷を追われて間もなく 11 年を迎えようとしている。
俺は、先祖から引き継いできた専業農家の 16 代目として誰にも迷惑をかけずに 70 数年この地で生きてきた。
4世代の賑やかな家族は、毎日の暮らしの中で、 家業の農作業を通して秋の収穫を喜び合ったり、孫たちの一日一日の成長を楽しみにしながら毎日を過ごしていたものだ。

農家 16 代の気持ちわかりますか
―わかんねえだろうな

それがあの 3.11 の出来事。
地震は天災としていつかは来るもので、これに備 えてインフラを整備したり、個人的には地震保険などである程度は備えることができるものだ。

ところが今回の原発事故は、絶対安全だという東電のうそを信じたばかりにその被害はとてつもなく大きく、生活基盤そのものを破壊されてしまった。
我家でも事故による急な避難命令から、 家族がバラバラに逃げざるを得なかったし、汚染された故郷にはこの 10 年の間に戻る事は出来なかった。
年老いた母は、避難先の特老で息を引き取ったし、 息子は震災前と同じ様な会社に就職してしまった。
孫たちも、そこの地域の学校に入り、幸いにも大したいじめにも遭うことも無く通うことができた。

16代の俺はと言えば、汚染されたといっても、残された田畑を簡単に捨てることも出来ないし、先祖の代から長年お世話になってきた地域社会のこともある。
避難先のさいたま市から 270キロの 高速道を月1回のペースで往復し、残してきた古い家屋敷や荒れ放題の田畑の手入れなどをやったり、地域に少しでも賑わいを取りもどせればとバラなどを植えたりしている。
国や、東電の職員さん。分かりますか。
この年老いた農家の 16 代の気持ちを。
わかんねえだろうなあ。

許し難い東電の対応
最近東電は、こんな事を言い始めたそうな。
「被害者には十分過ぎる賠償金を払ったのだから、これ以上の損害賠償はあり得ない」だと。
む、む・・・・そうか。
それじゃ言ってやる。
俺ら 10年前の平穏に暮らしていた家族、地域社会、豊かな恵みをくれた田畑、山や川それを全てダメにして人々を追い出してしまったのは一体誰なのかと。
元通りにしてくれよ。
その方が賠償金よりよっぽどいいですよ。
東電に強く言いたい、喝!

築 125 年でも家は健在、このまま先祖からの宝物を大切に維持続けたかったが、高齢者である自分を思うと悩む。南相馬市小高区の自宅
原発事故による甲状腺がん提訴

2011 年、福島県内に住んでいた 17~ 27 歳の男女6人が原発事故起因として甲状腺がんになった損害賠償を求める訴訟を、東京電力を相手に起こしました。
すでに事故から 11 年ですから当時の年齢は6~16 歳です。
原発事故当時、福島県の 18 歳未満は 38 万 5000 人でありました。
小児性甲状腺がんは 100 万人当たり1~2人と言われていますが、現在約 300 人が癌に罹り苦闘しています。
提訴したのは 6人でありますが、家族全員勇気のある行動であり感謝するしだいです。
私たちは全面的に応援していかなければならないとおもいます。
内科医である松崎道幸先生にはこれまでも数回「相双の会」 会報へ投稿して頂きましたが、今回の会報 117 号に小児甲状腺がんについてご投稿いただきました。

原発事故と小児甲状腺がん

道北勤医協 旭川北医院 松崎道幸医師

東日本大震災に伴う原発事故後の甲状腺検診で 300 名近くの小児甲状腺がんの方が発見されました。
政府と福島県は、原発事故によるものではないと言い続けていますが、私は以下の理由で、これらのがんの原因が原発事故によるものであり、引き続き検診を続ける必要があると考えます。

被ばく線量が多いほど甲状腺がんが増えていた

福島県を放射線被ばく量に応じて 6つの区域に分けて、甲状腺がん発生数を比較すると、被ばく量が多いほど発生数が多くなっていました(グラフ参照 統計 的に有意)。
国側は被ばく線量が 100 ミリ以下でとても少ないから発がんしないとも主張していますが、チェルノブイリでは 100 ミリシーベルト以下の被ばくで小児甲状腺がんの半数が発生しています。

男女比が自然発生型でなく放射線被ばく型

放射線被ばくと関係のない「自然発生」 の小児甲状腺がんは、女性に非常に多く発生します。
日本では男性 1 に対して女 性 4.3 です。
一方、放射線被ばくによる 甲状腺がんは、男性と女性でほぼ同じ比 率で発生します。
福島で発見された甲状腺がんの子どもさんの男女比は 1:1.5 程度であり、とても自然発生がんの男女比とは言えません。
福島の小児甲状腺がんの男女比は「放射線被ばく型」です。

「放射性ヨード濃度の低い地域(0) から高い地域(7)別に小児甲状腺が ん発生率を見ると、放射性ヨード量 が多いほど、発生率が有意に高まっていたことがわかります」

小児甲状腺がんは早期発見早期治療が必要

自然発生の甲状腺がん(乳頭がん)は、 検診で見つける必要がなく、何も治療しなくとも、ほとんど命に別条がないと言われてきました。
しかし、実は、小児甲状腺がんは、早期発見、早期治療が必要なんです。
日本のデータでも外国のデータでも、発見されたときに、低年齢、がんが大きい、転移があるほど、再発と死亡率が高まることが分かっています。

したがって、早く発見して、適切な治療を行う必要があるのです。
自然発生甲状腺がんでさえこうなのですから、放射線被ばくが原因と考えられる甲状腺がんでは一層、早期発見、早期治療が大事となるのです。
福島検診で発見され手術治療を受けた甲状腺がんは、外科の専門医の皆様が、しっかり治療することが必要だと診断されています。


いつまで待たせる最高裁判決

原発事故から11年になろうとしている中で、全国の避難者を中心に、損害賠償と国・東電の謝罪を求めるたくさんの集団訴訟が闘われてきました。
多くの集団訴訟の中で第1号となる「福島原発避難者訴訟第一陣」については、 仙台高裁判決が 2020 年 3 月 12 日に出されました。
賠償額は不十分ですが、東電の責任を認めたものでした。

私たち原告は、仙台高裁判決の履行を東電に求めましたが、東電は不当にも最高裁へ控訴しました。
それから間もなく二年になろうとしていますが、最高裁は「なしのつぶて」です。
この二年間、原告団と弁護団は最高裁へ要請書を5回提出してきました。
要請書を提出するにあたり多くの被害者と話し込んできましたが、誰一 人として東電の態度についてこれで良いだろうと思う方などいません。

東電や国は都合のいいように「安全」「復興」キャンペーンを張り巡らし追い詰めてきますが、被害者は時間が過ぎれば過ぎるほど、この町は、この村はどうなっていくのか予測がつかない現実に絶望しています。
何処へ行っても繁華街は消滅し、あるのは売地の看板が立っているだけ、朝日新聞の青木美希さんが書いた本「地図から消される街」そのものです。

私は思う。生きるために必要に応じてこの宇宙という根源から与えられる恵みを考えたとき、それを破壊して生き続けられるのかと。
原発事故訴訟はそこまで追い詰められた裁判なのです。
つまり司法判断は、人と社会と自然の破壊を許すのか否かを問う、重要な判断なのだと思います。

ご意見のお願い
是非ご投稿をいただき「声」として会報に載せたいと考えています。
匿名でもけっこうです。
◇電話 090(2364)3613
◇メール(國分) kokubunpisu@gmail.com

PDFはこちらから▶▶