原発被害者相双の会 会報115号が届きましたので、転載いたします。 

國分富夫副団長の第5回最高裁要請(要旨)

原発事故から 10 年8ヶ月になりますが、被害者の私たちはこれからどうなるのかと悩み苦しんでいるのが実態です。
現在でも地震、台風のたびに原発は大丈夫なのか気になります。
これまでも電力会社は事故・トラブルをひた隠しにし、後に発覚すると言う事が少なからずありました。

気がかりなのは、避難指示が解除された後、住民登録者の数が右肩下がりに減り続けていることです。

原発事故の被災者の多くは、ふる里に住民票を残しつつ、実質的には避難先に居住する形を取ってきました。
長く避難が続き、避難先が仕事や子育ての本拠となり、戻れるのか見通しがつかない中、ふる里から居住地に住民票を移す人が増えているのです。

二地域に居住をしている人は、できることなら戻りたい。しかし放射能の影響や暮らしの条件が整わない。
かといって、先人たちが後世のために苦労して豊かな自然を守り、荒地を開拓してきた田畑を自分の代で捨てられない。
思い出の多いふる里だから住民票を移すのは忍びないのです。

現在の「居住者」は、原発事故被害に遭った住民の「帰還者」とは異なります。
避難指示が解除された楢葉町をはじめ、富岡町、浪江町には、原発の廃炉や“復興”工事関連の作業員らが多数住み、その人数も含みます。
大熊町は東京電力社員が居住しています。

言葉は悪いですが、“水増し”された状態にもかかわらず、事故後、人口バランスは高齢者が非常に多くいびつな形になりました。
作業員の方々は仕事がなくなればいずれ転居しますから、時が進むほど、人口バランスの歪みが加速することは必至です。
実質的な住民が減り、高齢化も加速化されて農業の担い手が減らされた結果、いたるところに無残な農地が広がりました。
一年でも放置すればセイタカアワダチソウに覆われ、数年もすれ ば雑木が繁茂します。
だれしも先人か ら受け継いだ田畑を荒らしたくありま せん。

今のところは復興支援として田畑の刈払いをしているので何とか農地の形はとどめていますが、遠からず復興支援も終わるでしょう。
農地の維持に見切りをつけ、ソーラー業者に土地を貸し、無計画にソーラーが虫食い状に広がっているのが現状です。
これも原発事故が引き起こした被害の一つです。

何度でも言いますが、私たち被害者は原発事故について何の落ち度もありません。
これから被害者は何十年、何百年も放射能や、それに伴う実害と向き合っていかなければなりません。
原発事故の実態をよくお考えいただき、 だれに加害責任があるのか、適正な司法判断をしていただくよう強く求めます。

浪江駅周辺。手前の鉄道が常磐線と浪江駅。
駅の下方が浪江町体育館。
浪江町は山側を除き2017 年3月に「避難解除」されたが、中心部にすら人は戻っていない。
家の多くは取り壊し更地状態。
事故前は 2 万人を超えた町民が 、今年6月現在の居住者は1579 人。
その内相当数が廃炉作業員や東電関係者と思われる

最高裁前で怒りの集会

16 日早朝から、要請行動支援のため生業訴訟はじめ各地の原告団、戦争させない 1000 人委員会東京南部、千葉・なのはな生協、アスベスト訴訟団など、多くの支援者が最高裁前に集まった。
最初に國分から「帰還した高齢者は孤立し『俺はもう死んでもいい。子供と孫には帰ってこいとはいえない』という。
本当に情けない。
東電は謝らない、責任も取らない。どこまで被害者をいじめるのか、このままでは後世を守ることはできない。
どこまでも闘っていく」とアピール。

なりわい訴訟原告は「どれだけ農民が苦しんでいるか、生きがいを失ったか。真の復興は責任を明確にしてからしかはじまらない」、
愛媛訴訟原告は「原告 23 人の内一人は自死、一人は高齢で亡くなり、ご夫婦がともに病死した。一刻も早くいい判決を」、
千葉訴訟団原告は「避難者はたくさんの差別、いじめを乗り越えて頑張ってきた。放射能を全世界にまいた国として世界に恥じない判決を」等、口々に訴えた。
また、かながわ訴訟原告団長・村田弘さんは、近年東電が裁判所に言っている「弁済の抗弁」という不当な主張を別掲のように糾弾した。

11 月 16 日早朝、最高裁への要請行動への支援集会


神奈川原告団長・村田弘さんの訴え(要旨)

いま全国各地で続いている損害賠償請求集団訴訟における東電の対応が余りにもひどく、人間の尊厳を踏みにじる主張を展開している実態を知っていただきたい。

かながわ訴訟の東京高裁で7月 16 日の進行協議で、東電は驚くべき主張をした。
要約すれば、「原告が避難所を出て新たに住居を確保した時点で避難は終了している。
それ以降の賠償金支払いは過払いにあたる」というものです。
この主張を立証するためとして東電は、原告一人ひとりの「行動一覧表」と個別準備書面を提出、全原告の本人尋問を要求した。
5年半、30 回の真理を経て出された判決の土台を根底から覆す「ちゃぶ台返し」です。
個別準備書面では、目を覆いたくなるような主張が展開されています。
私の例を上げれば、避難先の借家で娘夫婦と同居している点を取り上げ「原告らの年齢を考えれば、娘と同居できて安心ではないか。
原告らが帰還しないのは(これらの事情による)自らの選択であって、避難を余儀なくされているものではない」と言い放っているのです。

別の訴訟では、確たる証拠もないのに「ADR の請求には詐欺の疑いがある」「農作業をしたいなら、貸農園があるじゃないか」などと言いたい放題の主張が書き連ねられていると聞く。
10 年を超える避難生活、経験したこともない裁判に耐え、必死になって被害の一端を訴え、裁判所も認めた事実を捻じ曲げ、未だ癒えない生傷に塩を塗り込むような東電の対応は、もはや「二次加害」ともいう以外にありません。

東電がこのような対応をとっているのは「最終判断が確定していない」という逃げ道があるからです。
原告らの無用な苦しみを絶つためにも、一刻も早く、最高裁判所が毅然とした判断を示していただくよう求めます。
これは全ての被害者の願いでもあります。

原発事故全国弁護団連絡会
東電の「弁済の抗弁」主張の撤回求める声明(要旨)
2021年10月24日

(前略)

3 東電の「弁済の抗弁」主張の重大な問題点

(1)中間指針基準による賠償金が「払い過ぎ」だと主張する「弁済の抗弁」
東電は、原発事故から10年も経った一昨年秋頃から、全国各地の訴訟で一斉に「弁済の抗弁」という主張を持ち出し大々的に展開しています。

「弁済の抗弁」とは、文部科学省の損害賠償の「中間指針」により東電が支払った賠償金が、「払い過ぎ」になっているとして、これまで直接交渉やADR手続きで支払ってきた賠償金の全額が既払金として弁済に充当され得るものだとする主張です。

(2)訴訟引き延ばしと賠償の回避を図る「弁済の抗弁」

「弁済の抗弁」の主張が認められると、「慰謝料」の請求をしている原告らは既に支払われ賠償金に関して、その存否や金額について、改めて主張立証を行う必要が生じます。
そのような膨大な主張立証は、長期化している訴訟をさらに長期化し、迅速な被害者救済が困難になります。

(3)原告らを二重三重に苦しめる「弁済の抗弁」
さらに東電は、「弁済の抗弁」に関する不当な主張や意見陳述を行って、原告らを二重三重に苦しめています。
さいたま地裁の本年9月 22 日の裁判において、東電代理人は避難指示区域に居住していた原告らについて、「財産的賠償も十二分になされ、むしろ明らかな過払いも認められる上、不正請求と疑われる事案もある」と述べました。
その例として、「自宅を津波で流されてしまったにもかかわらず、直接請求手続において、住民票の記載をもとに本件事故により避難を余儀なくされたとの請求をし、避難に係る精神的損害や財産的損害を被ったとして賠償金を受領した者がいます。」として、原発事故の被害者ではないと決めつけ「不正請求」呼ばわりして、原告個人の名誉を傷つけました。

さらに、「大半の者は本件事故後数か月の間に避難所ではなく通常のアパート・マンション等と変わりない住宅に入り、従前と変わらないレベルの住居を確保するほか、多くの者がその後数年内に自宅を購入していて、中間指針等で想定されるような85か月もの間、過酷な避難生活を余儀なくされた者はありません。」などと平然と述べました。

(4)全ての原発事故被害者の問題である「弁済の抗弁」

このような主張からすると、中間指針に基づき支払った賠償金は払い過ぎだとして、その返還を求めてくることすら想定されます。

この問題は、訴訟を闘っている原告らだけの問題でなく、すべての原発事故被害者に共通の問題になります。

4 「弁済の抗弁」主張を排斥した地裁・高裁判決(はいせき 排斥とは「受け入れられないとしてしりぞけること」)

2021 年6月2日の新潟訴訟新潟地裁判決、同年7月 30 日の津島訴訟福島地裁郡山支部判決、同年9月 29 日の愛媛訴訟控訴審高松高裁判決では、いずれも東電の「弁済の抗弁」の主張を明確に排斥しました。

5 東電に対する要求

被害者の尊厳を著しく傷つけ権利救済を大幅に遅滞させる、東電による「弁済の抗弁」は、加害者の態度としては絶対に許されません。

東電は、これまでの損害賠償を命じた司法判断を真摯に受けとめ、不当な抗弁を撤回して加害者責任を認めて、全ての被害者の救済を速やかに図るべきです。

以上

弁済の抗弁
弁済とは、お金を借りた場合にそのお金を返すことです。
抗弁とは、民事訴訟で、被告が相手方の申し立てや主張を排斥するために、別個の事項を主張すること。

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