原発被害者相双の会 会報113号が届きましたので、転載いたします。

1.国会審議もなく進める汚染水放出

新型コロナへの万全の対策が求められる中で、議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は国会召集を決定しなければならないのに、国会を開催しようとしませんでした。
国会を開かず進めたのはコロナ対策だけではありません。
危険な放射性物質を含む汚染水海洋放出も、国会での質疑もなしで閣議決定だからと進めようとしています。

生物が生きていくための最も重要な海洋に「一番安上がりな方法であるから」と汚染水を放出するなど許されることではありません。
「放射性物質トリチウムは害がない」と言い続け、「風評被害を払拭すれば 理解が得られる」といいますが、実害を隠 して風評被害と叫ぶのは無責任です。

第一原発の沖合1キロ先まで海底トンネ ルを新設して配管を通し放出するには、莫大な金がかかります。
そのための調査の実施には、自治体、国、漁業組合の承認が不可欠でしょう。
さらに、海洋放出には福島をはじめ全国漁業協同組合連合会の多くの協同組合が反対を表明しています。
放射性物質トリチウムは無害であるなどあり得ません。
まさに実害である。莫大な金をかけるなら福島第二原発は廃炉にすると決まっているのですから、この膨大な敷地へパイプラインを新設すれば何十年分も保管できるでしょう。
その間に第一原発に地下水が流入しないよう対策を強化すれば済むことです。

また、「予想以上」と言われる汚染土を、中間貯蔵施設に運びきれないから公共事業に再利用すると国は考えていますが、放射性物質をばらまくなどゆるされません。
特に子どもは大人の20 倍も被ばく障害となります。
それでもばらまくのは無責任にも程があります。

2.「移住支援」で「復興」とは何だろう?

放射性物質が無くなる事が第一で、インフラ整備が進んだから復興とはいい難く、安心して子育てができる条件が整う事が復興ではないでしょうか。
政府は、福島第1原発の周辺 12 市町村へ移住する人に、最大 200 万円の支援金を出す方針です。
12 市町村の避難指示が解除された区域の人口は、住民基本台帳登録数の2割にとどまっています。
故郷へ帰ることを切望しながら、しかし子供の健康や農作業の困難などとても住める環境にないことを熟知しているからこそ、帰還できないのです。
避難指示は順次解除されていますが、住民の帰還は 65 歳以上の方が殆どで頭打ちになり現在は減少傾向にあります。

そこで「復興」を急ぐ国は、避難者の帰還促進だけでなく、新たな移住を促して地域の復興再生を進めようとします。
支援金の対象は、2011 年の事故当時、12市町村に住んでいなかった人です。
県外から家族で移住した場合は 200 万円(県内からは 120 万円)、単身の場合は 120 万円(同80 万円)を支給する。

移住して5年以上住むことや「就業」などが条件で、県外企業に勤務し、リモートワークをしながら12 市町村で暮らすケースでも支援金を受けられる。
さらに、移住後5年以内に起業する場合、必要経費の4分の3(最大400 万円)を支給する。

財源は、復興庁が県や12 市町村に交付している福島再生加速化交付金などを充てる。
福島復興再生特別措置法で移住促進策が交付金の対象となり、自民、公明両党が政府に支援金創設を提言していました。

こうした条件をみると、長期に定住するのか、企業がたちいかなくなったらどうするのか、等々疑問を感じます。
何よりも一番の課題は原発事故被害者が戻れる条件をつくることではないでしょうか、また県外等から移住者を募集する場合は原発事故による放射能汚染で被ばくのリスクがある事を明確に文書等で知らせる事は最も重要なことです。
「安全ですから移住者を募集します」ではあまりにも無責任ではないでしょうか。

3.危険な「除染」労働―効果もなく予算の使途は?

原発事故から間もなく、何の議論もされず「除染」「除染」と騒がれ、除染労働者は全国から集まり始めました。
夜の街中は賑わい飲食店は満杯でした。しかし、トラブルも多くなりその後、除染労働者は規制され静かにはなったようです。

除染労働は多かれ少なかれ被ばくします。
簡単なマスクをしている程度で作業です。
これで良いのか疑問です。それでも作業員は集まってくるのは何故なのかと思わざるを得ません。

福島の復興のために協力しなければならないと考えて作業に関わる人などいません。

先進国などとは名ばかりの日本は低賃金です。
だから家族を守るために、少しでも高い賃金を求めて、過酷な除染作業を危険だと分かっていても除染労働者になったのだと思うと、心が痛みます。
除染作業員の募集広告を見ると「初心者歓迎」「高収入のお仕事」と、いった文言が並んでいます。

しかし、作業に見合うような賃金を得ていたのでしょうか。
「除染」と言っても、居住地域だけで、広大な山林はまったく手付かずです。
大雨のたびに放射性物質は流れだします。
ため池の線量は除染してもまた元に戻ります。
この程度の「除染」でも 実際にかかった費用は、国の計上予算の4倍の5兆円とか言われています。
しかも、 何に使われたのか詳細は分かりません。
ゼネコンはじめ業者がボロ儲けしているとは 聞きます。
作業員の危険手当など支給しているのかどうかを含め、国が把握し調査すべきです。

放射能測定

4.追いつめられているのは、事故被害者だけか?

原発事故で私たち被害者が追い詰められ ていると同じように、新型コロナ禍で、国民は追い詰められているのではないでしょうか。

医療崩壊も人災です。
日本は人口 1000 人当りの医師数は 2.4 人と、OECD(経済協力開発機構)加盟平均は 3.5 人であり 35カ国中で 30 位。
厚生労働省の調査では医師免許を取得している人は増加しているが、これには厚労省の医系技官や引退した医師など医療現場に携わらない人数も含んでいるため、実際の医師数の水準は非常に低い。

これは医学部の定員抑制がおこなわれてきた結果といえます。
しかも感染症対策に欠かせない大規模な公的医療機関を縮小・独 立法人化(事実上の民営化)し、小規模民間医 療機関が育成されてきました。
保健所の削減もあり、医療崩壊は起こるべくして起きました。

すでに小泉構造改革政権から、医療制度 の改悪は始まっていました。
医療費の窓口負担の引き上げで、特に高齢の方は病院にいきづらくなりました。
2002 年、70 歳以上高齢者完全定率1割負担(一定所得以上の高齢者は2割)。03 年、 被用者保険本人3割負担。06 年、 現役並みの所得がある70 歳以上高齢者3割負担。
08 年. 70~74 歳の高齢者2割負担…という具合です。

また自公政権下で賃金は下がりました。
ヨーロッパ諸国や日・米を含め37 ヶ国の先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)では、1990 年代日本は12 位でフランス、イギリス、韓国より上位でしたが2020年には 22 位に落ち込んでいます。
第一位のアメリカの約半分となりました。

2011 年から、実質賃金と大企業の法人税率負担は比例して下がってきています。
企業が減税され「内部留保」が積みあがるのに比して、賃金が下がってきているのです。

汚染された牧場

5.自民党総裁選と総選挙―原発政策は?

自民党総裁選では原発問題もテーマになりました。
まず全候補が原発の再稼働では一致。
河野太郎だけは「新増設ができる環境にない」と主張しましたが、再稼働を容認すればこの先半世紀以上先まで、原発は稼働し続けます。
東日本大震災を上回る地震が予測されているというのに。
原発の運転期間は国が「原則 40 年」と定めていますが、「1 回のみ最長 20 年延長も認める」という抜け穴があります。
原発は建設中含め36 基。
すでに内 10 基が強い反対を無視して再稼働を認められました。

一方、岸田、高市、野田は、新型炉開発 への投資や新増設に賛成をしました。
政府の現行エネルギー基本計画では「新増設」 は示していませんが、改訂中の基本計画案では、新増設の含みをもたせています。
自民党の大勢は「新増設」推進であることは今回の総裁選でもさらにはっきりしました。
新政権下では「再稼働」だけでなく「新増設」へ向かうでしょう。

なお、河野は TV で、原子力潜水艦保有について「能力的には日本が原潜を持つのは非常に大事だ」「コストが現実的か検討を」と、のべました。
原潜は究極の軍事移動原子炉です。
これではいくら「新増設」を否定しても、化けの皮がはがれるだけ。
高市も原潜保有積極論で「長距離に対応できるものはあってもいいのではないかと思う」「憲法違反にはならないと考える」と述べました。

総選挙は間近です。
原発推進の自公政権が続かないことを期待します。

原発被害者として国政に望むことは、福島一原発被害者への十分な補償であり、再稼働をさせないことであり、「原発ゼロ基本法案」の早期成立です。

原発ゼロ基本法案は、2018 年3 月に、立憲民主党・日本共産党・自由党・社会民主党の野党 4 党が共同提出したものですが、自公が拒んでまだ一度も審議すらされていません。
それは基本理念として「すべての原発を速やかに停止、廃止する」ことをかかげ、
①施行後5 年以内にすべての原発の廃炉を決定する。
②再生可能エネルギーの割合を 2030 年までに40%以上とする。
③廃炉作業を行う電力会社や立地地域の雇用・経済対策について、国が必要な支援を行う、を骨子としています。

放射能汚染された自然
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